実家の建て替えを決意したのは、2023年の春だった。
LIFULL HOME’Sに相談に行ったあの日から、ハウスメーカー5社との比較、住友不動産との契約、そして約9ヶ月にわたる設計と施工。気づけば1年以上の月日が流れていた。
55歳で実家を建て替える──この大きなプロジェクトを始動した日、自分でも不安と期待が入り混じっていた。築60年の家を解体し、新しい家をこの場所に立ち上げる。それは親から受け継いだ土地と記憶を、自分自身の手で次の形へつなぐ作業でもあった。
そして2024年5月24日。引き渡しの日がやってきた。
5月24日午前、融資実行
引き渡し当日の朝、第38章で書いた通り、三井住友信託銀行から融資実行完了の電話を受け取った。住宅ローンが実行され、住友不動産への支払いが完了した。
これで、書類と金銭の手続きはすべて終わった。残るのは、物理的な引き渡しだけだ。午後、新居に向かう。
鍵の受け渡し
引き渡しは、新居の現場で行われた。住友不動産側からは工事監督と営業担当が同席。内覧会で指摘した修繕箇所は、すべて完了していた。
「これで、この家はあなたのものです」
工事監督から鍵を手渡された。

ずっしりと手の中に収まる金属の重さを感じながら、長く続いたプロジェクトが、いま着地の瞬間を迎えたことを実感した。
書類のサインを済ませ、最終的な保証内容と定期点検のスケジュールについて説明を受けた。住友不動産の注文住宅は「長期60年保証システム」。初期保証は10年で、引き渡し後の半年後、1年後、2年後、10年後に定期点検が予定されている。
10年目以降は、同社が認める有料メンテナンス工事を実施することで、構造躯体の保証を最長60年まで延長できる仕組みだ。10年目と20年目は東京都が義務付ける防蟻施工(10〜15万円)、30年目(私は86歳になる)には足場を組んで壁面・屋根の修繕(100万円以上の費用見込み)が想定される。営業担当からは「30年目のタイミングで費用をかけるかどうかは、そのときにご判断いただければ」と言われた。
そのときの自分が、何を選ぶのかは、今はわからない。ただ、この家を長く使い続ける選択肢が、制度として用意されていることは、安心材料の一つだった。
すべての引き渡し手続きが完了したとき、工事監督と営業担当に深く感謝の言葉を伝えた。建築許可申請の遅れも、外構工事の設計誤差も、彼らがその場その場で適切に判断し、対応してくれた結果として、今この家が完成している。
仮住まいから新居へ──引っ越し
引き渡しから数日後、仮住まいから新居への引っ越しを行った。
第26章で書いた仮住まい先(日本テンポラリーハウス)から、新居までの動線。第27章で整理した荷物が、引っ越し業者のトラックで運ばれてくる。築60年の旧家から仮住まいへ運び、そして新居へ──同じ家財が、ついに本来の居場所に到着した。
段ボールに囲まれた室内で、自分の判断と検討の積み重ねが、この空間として目の前に立ち上がっていることを実感した。5社のハウスメーカーを比較し、住友不動産を選び、間取りを決め、外壁材を選び、床のフローリングを選び、設備を選んできた日々。仮住まいの和室で広げていた図面の上の話が、いま私が立っている床になっている。
入居後の最初の数日
入居して、いくつかの構想がそのまま実現した。
ロフトには、仮住まい先で使っていた座椅子と座卓を運び入れた。第41章の内覧会で「入念に計画した絵」として頭に浮かんだ通りの空間が、現実のものとなった。低い本棚を並べ、コレクションを置く準備も始めた。秘密基地、コレクションエリア──呼び方は何でもいいが、自分だけの空間がここにある。
階段の床上がりには、テレビとポールハンガーを設置した。ハウスメーカーの設計ではクローゼットとして閉じる予定だった場所が、扉のない、開かれた使い方として機能している。第18章の設計フェーズで提案した変更が、生活の中で正解だったことが日々確認できる。
1階のライト基調と2階のディープウォールナット基調の対比は、入居後も期待通りに効いている。階段を上がるたびに空気が変わる感覚は、内覧会のときに感じた印象よりも、住み始めてからの方が強く実感できた。
そして、想定外の発見もあった。日中の自然光の入り方、夜の照明の組み合わせ、通気の流れ方──図面と設計打ち合わせでは見えなかった「住んでいないと分からない部分」が、毎日少しずつ姿を現している。それは、これからこの家で暮らしていく日々の楽しみだ。
親から受け継いだ土地で、新しい家とともに
築60年の家から、新しい家へ。
土地は変わらない。私が生まれ育った場所だ。その同じ場所に、現代の耐震性と断熱性を備えた新しい家が建った。守りたかったのは「ここに住み続ける」ことであって、「築60年の建物そのもの」ではなかった。建て替えという選択は、その本質を守るための手段だった。
第4章で書いた「親から受け継いだこの家を、自分の手で新しく丈夫な家に生まれ変わらせる」という決意は、ここに形となった。
55歳で建て替えを始動するという判断は、いまも正解だったと感じている。次の30年、40年、この家でどんな日々を過ごせるだろうか。それを楽しみに、私の新しい暮らしが始まった。