年が明けて、1月5日、解体工事が始まった。
築60年の実家が、この日から5日間かけて消えていく。
60年の歴史が消えることへの感慨は、不思議なほど湧かなかった。むしろ、長年使い倒してボロボロになってしまった住処を、ようやく取り壊してもらえるという清々しさのほうが強かった。私にとってこの日は、ひとつの終わりというより、新しい家への第一歩だった。
足場設置から解体着工まで
解体の準備作業は、年末のうちに済んでいた。
12月28日に足場が設置され、電気設備の撤去も完了していた。そこから年を越して1月5日の解体着工まで約1週間の間隔がある。これは単純に、お互いに正月休みをはさんだためだ。
ちなみに「年末までに足場を設置し、解体作業自体は年明けから」という段取りには、近隣への配慮の意味もあった。解体工事が年を跨ぐと、解体途中の半壊状態で正月を迎えることになり、見た目としても近隣に良い印象を持たれない。12月末で準備を終え、1月の仕事始めと同時に解体に入る、という段取りはこの配慮を踏まえたものだった。
近隣への挨拶回りは、解体業者のMUSUBIが事前に行ってくれていた。解体工事は音も埃も出るので、近隣トラブルになりやすい。これをプロにしっかり対応してもらえるのは、自分で業者を手配するうえでの大きなメリットだった。
毎朝、現場に立ち寄る
解体期間中、毎朝、出勤前に現場に立ち寄った。
仮住まい先からも実家跡地からも、職場までの導線は大きくは変わらない。自分の目で進捗を確認したいという気持ちがあったし、立ち寄れば現場の空気が伝わってくる。
たまに工事担当者が先に来ていると、挨拶をして進捗状況を聞いた。
意外だったのは、建物本体の解体そのものはほぼ1日で終わってしまったことだ。重機が入り、壁と屋根が崩れ、骨組みが倒されていく。一日の仕事としての解体スピードには圧倒された。
その後の数日は、むしろ残作業のほうに時間がかかっていた。瓦礫の分別、運び出し、基礎部分の除去、整地。作業員たちはみな黙々と作業に専念していて、現場には無駄な動きがなかった。工期は当初予定通り、順調に進んだ。
1月10日、解体完工
1月10日、解体工事が完工した。
そして偶然にも、その翌日の1月11日、建築許可通知書が発行された。11月の審査会に間に合わず12月に繰り越された、あの許可申請の決着である。解体完工と建築許可、このふたつのタイミングが重なったのは、後から振り返ってみれば皮肉なほど符合していた。
地中埋設物
解体完工後、解体工事監督から連絡が入った。
やはり地中に埋設物があり、想像以上に大量だった。大半はコンクリート基礎の残骸。量としては、3トントラック3台分。これを撤去しないと、新しい家の基礎工事に進めない。
第25章でも触れたが、当家の土地は近隣の工事の話から、地中埋設物が出る可能性が高いと事前に予想していた。MUSUBIの社長にもこの件は最初に伝えてあり、「発見時点ですぐ見積を提出する」という約束を取り付けていた。
約束通り、MUSUBIからの見積提示はスムーズだった。撤去費用は数十万円。大きな出費には違いないが、悪徳業者が水増しするような不透明さはなく、数量と単価が明確に示された見積書だった。第25章で書いた「外から埋設物を持ち込んで費用を水増しする業者もいる」という警告を受けたからこそ、この透明性には安心できた。
1月12日に地中埋設物撤去工事を発注、1月17日に着工、1月18日に完工。解体本体と同じく、MUSUBIの仕事はテキパキと進んだ。
住友不動産の現地確認と、境界杭の問題
1月12日、住友不動産の工事監督が現地に出向いて調査・確認を行った。
この工事監督は、ここから建築フェーズの担当者として関わってくれる方だ。後日改めて挨拶の機会があるが、この日は確認作業が優先された。
調査結果はチャットで共有された。住友不動産は契約当初から「すみふトーク」という専用のチャットツールを導入しており、建築関連の連絡や資料のやり取りがここで一元化されている。工事監督からの共有も、このすみふトークを通じて届いた。
地面の状態の確認結果は、「解体後の更地化はきれいに行われており、埋設物も除去され問題なし」だった。
ただ、ひとつ問題が見つかった。
境界ポイントを示す境界杭が、4か所のうち2か所見当たらない、というのだ。
翌1月14日、営業担当と私が現地に出向いて確認した。結論としては、これは解体工事によって杭が失われたのではなく、以前からその2か所の境界杭がなくなっていたようだった。長年の経年で土に埋もれたのか、何かの工事で失われたのか、正確な経緯はわからない。
対応としては、杭着工(地縄確認会)の際に、建築上の境界ポイントを新たに設定・確認したうえで進める、ということで合意した。境界杭の問題は、解体工事のトラブルではなく、建築フェーズに引き継がれる課題となった。
費用の全体像
解体工事全体の費用は、以下のようになった。
- 当初の解体工事費用:約120万円
- 解体前の残置物片付け(MUSUBI対応分):約15万円
- 地中埋設物撤去:数十万円
残置物の片付けは、エコピットで処分しきれなかった産廃系のものなどをMUSUBIに解体時にまとめて処分してもらった分だ。地中埋設物の撤去費用は事前には見込めない性質の支出だが、MUSUBIの誠実な見積対応のおかげで、納得感を持って支払うことができた。
想定していた予算をかなりオーバーしたのは事実だ。ただ、住友不動産に一括で発注していた場合も、地中埋設物に対する追加費用は当然発生していたはずで、むしろ単価は高くついていた可能性もある。結果として、自分で業者を手配した方針は間違っていなかったと思う。
一方で、自己手配にはトレードオフもある。地中埋設物の扱い――どの程度まで許容範囲か、建築に支障のある位置はどこまでか、いつまでに何を終わらせる必要があるか――について、住友不動産とMUSUBIの間に立って、自分が連携・判断・調整しなければならない場面が多かった。このやり取りに使うエネルギーは小さくなかった。
資金に余裕がある場合は、ハウスメーカーに一括で発注することでこの調整業務を業者側に委ねられる。費用を抑えたい人には自己手配を強くお勧めするが、調整作業をどれだけ自分で抱えられるかは、それぞれの状況に応じて判断する必要がある。自己手配は費用を抑えられるが、時間と判断の労力が別途かかる。どちらの方式にもメリットとデメリットがあり、自分の状況に照らして選ぶのが良いと思う。
更地の上で
解体と地中埋設物撤去がすべて終わった後、改めて現地に立った。
長年見慣れた実家が跡形もなく消え、更地になっている光景。ここで60年暮らしてきたはずなのに、その実感はもう遠かった。
代わりに胸にあったのは、これから建つ新しい家への期待感だった。
ここに、自分が設計に加わり、仕様を一つひとつ選び、計画してきた家が建つ。1年近くかけて積み上げてきた判断の集合が、この土地の上に物理的な形を取って現れる。更地は、その空白のキャンバスだった。
次は、着工。地縄確認会と着工会が目前に迫っていた。